この記事を書いた人
佐藤 寧々(さとう ねね)
公認心理師 / 不妊カウンセラー医療法人産婦人科にて8年間、延べ3,000組以上のカップルのカウンセリングを担当。現在は独立し、オンラインを中心に妊活中の女性のメンタルヘルスケアをサポートしている。特定非営利活動法人Fineの協力カウンセラーも務める。
読者のあなたへのメッセージ:
決してあなたをジャッジしません。まずはその辛いお気持ちを、そのまま聞かせてください。この記事が、先の見えない不安の中で頑張るあなたの心を、少しでも温める灯りになることを願っています。
「もう頑張れない…」
先の見えない妊活に疲れ、占いにでも頼りたくなってしまう。そのお気持ち、痛いほどよく分かります。
しかし、本当の希望は、未来を占うことではなく「今のあなたの心」を大切にすることから生まれます。
この記事は、多くの妊活女性を支えてきた不妊カウンセラーが、占いに頼りたくなる辛い気持ちに寄り添い、科学的根拠のある「セルフケア」で不安を希望に変える方法を具体的にお伝えします。
読み終える頃には、心が少し軽くなり、「明日からこれを試してみよう」と前向きな気持ちになっているはずです。
まず知ってほしいこと。「占いに頼りたい」と感じるのは、あなただけではありません
カウンセリングの場で、私は「私が悪いのでしょうか?」というご質問を、これまで何度も、本当に何度も伺ってきました。
まず知ってほしいことがあります。その「占いに頼りたい」という気持ちは、決して特別なことでも、弱いことでもありません。先の見えない不安の中で、何かにすがりたくなるのはごく自然な心の働きです。
国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」によれば、日本では夫婦の6組に1組が不妊の検査や治療を経験したことがあるとされています。今あなたが感じている悩みや孤独感は、決してあなた一人だけのものではありません。
だから、どうかご自身を責めないでください。あなたは、たった一人で、本当によく頑張っていらっしゃいます。
本当の希望の育て方。未来の予測から「今の自分を大切にする」セルフケアへ
では、どうすればこの不安な気持ちと上手に付き合っていけるのでしょうか。
その鍵は、未来を予測することから、「今の自分を大切にする」こと、すなわちセルフケアへと視点を移すことにあります。
妊活ストレスは、心身に大きな影響を与えることが知られています。この妊活ストレスという重荷は、セルフケアという心の栄養によって、その重さを和らげることができます。コントロールできない未来を案じるのではなく、今コントロールできるご自身の心に優しく注意を向けること。それが、本当の意味で希望を育てる第一歩になるのです。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「赤ちゃんのために」ではなく、「今日の自分のために」を合言葉にしてみてください。
なぜなら、この点は多くの方が最初に躓くポイントだからです。「赤ちゃんのために」と頑張りすぎると、知らず知らずのうちにご自身の心と体の声を無視してしまいます。まずは今日のあなた自身が、少しでも心地よく過ごせること。その積み重ねが、結果的に未来のあなたを支える一番の力になります。
今日から始められる、心を軽くする3つの具体的な方法
ここからは、今日からすぐに始められる、心を軽くするための具体的な方法を3つご紹介します。どれも完璧にやろうとせず、「ちょっと試してみようかな」くらいの軽い気持ちで取り組んでみてください。
1. 5分でできる「マインドフルネス呼吸法」
マインドフルネスとは、「今、この瞬間」に意識を向ける心のトレーニングです。未来への不安から心を現在地に戻してあげることで、心の波を穏やかにする効果が期待できます。
- 楽な姿勢で座り、軽く目を閉じます。
- 鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹が膨らむのを感じます。
- 口からゆっくりと、吸った時間の倍くらいの時間をかけて息を吐き出します。
- この呼吸にだけ、意識を集中させます。何か考えが浮かんできたら、「考えが浮かんだな」と気づき、またそっと呼吸に意識を戻します。
このマインドフルネス呼吸法を、まずは1日5分、できれば朝起きた時や夜寝る前に行うのがおすすめです。
2. 感情を書き出す「ジャーナリング」
ジャーナリングは「書く瞑想」とも呼ばれ、頭の中のもやもやした感情を紙に書き出すことで、心を整理するセルフケア手法です。
- 誰にも見せないノートとペンを用意します。
- タイマーを5分〜10分セットします。
- 時間内、頭に浮かんだことを、何も考えずにひたすら書き続けます。
- 「辛い」「悲しい」「なんで私だけ」といったネガティブな感情も、そのまま書き出してみてください。
このジャーナリングの目的は、綺麗な文章を書くことではありません。感情を外に出してあげること自体が、心を軽くする助けになります。
3. 情報から離れる「デジタル・デトックス」
SNSで友人の妊娠報告を見たり、インターネットで検索しては不安な情報に触れたり…。デジタルデバイスは、時に私たちの心を疲れさせます。
- 寝る前の1時間はスマートフォンを見ない。
- 週に1日、SNSアプリを開かない日を作る。
このように、意識的に情報から離れる「デジタル・デトックス」の時間を作ることで、他人と自分を比較することから心を解放し、穏やかな時間を取り戻すことができます。
もし、一人で抱えきれないと感じたら
セルフケアを試しても、どうしても一人で抱えきれないと感じる日もあるかもしれません。そんな時は、専門家や同じ経験を持つ仲間に頼ることを、どうか選択肢に入れてください。
不妊カウンセリングとピアサポートは、どちらもあなたの大きな助けになりますが、それぞれ補完的な役割を持っています。
- 不妊カウンセリング: 臨床心理士や公認心理師などの専門家と1対1で対話し、ご自身の気持ちを深く整理したり、夫婦間のコミュニケーションについて相談したりできます。
- ピアサポート: NPO法人が主催するおしゃべり会などで、同じ経験を持つ当事者同士で話をします。「自分だけじゃなかったんだ」という安心感や、経験者ならではの情報を得ることができます。
どちらが良い・悪いということではありません。今のあなたに必要なサポートを選んでみてください。信頼できる相談先として、以下のような公的な窓口や団体があります。
- 厚生労働省 不妊・不育症相談窓口一覧
- 特定非営利活動法人Fine(ファイン)
まとめ:あなたの人生の主役は、あなた自身です
この記事では、占いに頼りたくなるほど辛い妊活の不安と向き合い、心を軽くするためのセルフケアについてお伝えしてきました。
- 占いに頼りたい気持ちは、自然なこと。
- 未来を占うより、「今の自分」を大切にするセルフケアが希望を育てる。
- マインドフルネスやジャーナリングなど、今日からできることがある。
- 辛い時は、一人で抱えずに専門家や仲間を頼っていい。
最後に、これだけは忘れないでください。
あなたは、これまで本当によく頑張ってきました。どうか、ご自身を世界で一番大切に扱ってあげてください。
まずは、お茶を一杯淹れて、5分間だけ、自分の呼吸に意識を向けることから始めてみませんか?
[監修者情報]
監修:木村 健太郎 医師
きむらレディースクリニック 院長 / 産婦人科専門医日本医科大学卒業後、同大学付属病院での勤務を経て、2015年に「きむらレディースクリニック」を開院。日本産科婦人科学会専門医。身体的な治療だけでなく、患者一人ひとりの心に寄り添う医療を信条としている。
[参考文献リスト]
- 国立社会保障・人口問題研究所. (2022). 第16回出生動向基本調査.
- 厚生労働省. 「不妊・不育症に関する相談窓口」.
- 特定非営利活動法人Fine. 「不妊白書」.


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