【臨床心理士が解説】いじめられる夢は危険信号？あなたの心のSOSを読み解く方法

Tweet

Pocket

この記事を書いた人：佐々木 裕子（ささき ゆうこ）

臨床心理士／公認心理師

青年期・成人期のメンタルヘルスを専門とし、都内カウンセリングオフィスで年間500件以上の臨床に携わる。特に職場における適応障害や対人関係のストレスケア、自己肯定感の育成に関するカウンセリングを得意とする。大手企業のメンタルヘルス研修講師も務める。

また、いじめられる夢を見てしまった…。
そんな夜は、不安で眠れなくなりますよね。その怖い夢が、現実になってしまったらどうしよう、と。

ですが、まず安心してください。その夢は、未来を予言する「警告」ではありません。それは、あなたの心が発している「SOSサイン」なのです。

この記事は、単なる夢占いの解説書ではありません。あなたの心が発するSOSの意味を心理学的に読み解き、現実の不安を「次の一歩」に変えるための、あなただけの心の処方箋です。

この記事を読み終える頃には、夢への恐怖が和らぎ、明日から試せる具体的なセルフケア方法が身についているはずです。

なぜ、いじめられる夢を見るの？あなたの心が発する3つのサイン

カウンセリングで最もよく受けるご相談の一つに、「嫌な夢を繰り返し見てしまう」というものがあります。特に「いじめられる夢」は、多くの方が経験する、非常に一般的な夢なのです。決してあなただけではありませんよ。

では、なぜ私たちの心は、そのような辛い夢を見せるのでしょうか。それには、主に3つの心理的な背景が考えられます。

1. サイン①：対人関係のストレス
   職場の人間関係で緊張が続いたり、言いたいことを我慢したりする日が続くと、そのストレスが夢に現れやすくなります。特に、先輩や上司など、気を遣う相手との関係に悩んでいる場合、その人との間に生じた不安や恐怖といった感情が、いじめられる夢という形で表現されることがあります。
2. サイン②：自信のなさ・自己肯定感の低下
   「自分はうまくやれていない」「周りに迷惑をかけているかもしれない」といった、自分に対するネガティブな感情も、いじめられる夢の大きな原因となります。自己肯定感が低下している時、私たちは自分自身を「いじめられるべき存在」だと無意識に感じてしまい、その思いが夢の中のストーリーとして再現されてしまうのです。
3. サイン③：抑圧された感情
   悔しい、悲しい、怒っている…。日中の生活で、そうしたネガティブな感情をぐっと堪える場面はありませんか？心の中に押し込めた（抑圧した）感情は、行き場をなくしてしまいます。そして夜、眠っている間に、あなたの深層心理がその未消化の感情を処理しようとして、いじめられる夢のような衝撃的な形で表現することがあるのです。

その夢は「警告」ではない。あなたの心を映す鏡です

「この夢は、これから悪いことが起きる前触れなのでは？」というご質問をよく受けます。その不安、本当によく分かります。しかし、心理学的には、夢は未来を予知するものではなく、あくまで「現在のあなたの心を映す鏡」だと考えられています。

つまり、いじめられる夢を見るのは、ストレスや不安が原因となって、あなたの深層心理が「もう限界だよ」「自分の気持ちに気づいて」というSOSを表現している状態なのです。

特に注目したいのは、夢の中であなたをいじめてくる人物です。例えば、夢の中で先輩にいじめられたとしても、それは必ずしも「その先輩があなたを嫌っている」という事実を示すものではありません。

むしろ、「先輩のように、もっと完璧に仕事をしなくては」という、あなた自身があなたにかける過度なプレッシャー（低い自己肯定感）が、先輩の姿を借りて夢に現れている可能性があるのです。夢は、あなたの心が何に苦しんでいるのかを教えてくれる、大切なメッセージなのです。

不安な夜を乗り越える。今日からできる3つの心の処方箋

夢が心のSOSだと分かっても、やはり不安な気持ちはすぐには消えませんよね。夢の意味をネットで調べては、その解釈に一喜一憂し、かえって疲れてしまう…そんな典型的な失敗・課題に陥る方も少なくありません。

大切なのは、夢の解釈で終わらせず、具体的な行動であなたの心をケアしてあげることです。ここでは、専門家として私がお勧めする3つの対処法をご紹介します。

1. 心の処方箋①：夢日記をつける（感情の客観視）
   怖い夢を見た朝は、ぜひノートにその内容を書き出してみてください。これを夢日記と呼びます。ポイントは、出来事だけでなく「その時どう感じたか」という感情を詳しく書くことです。文字にすることで、自分の感情を客観的に眺めることができ、「私はこんなに不安だったんだな」と、自分自身を理解するきっかけになります。

かんたん夢日記テンプレート

2. 心の処方箋②：小さな成功体験を記録する（自己肯定感の回復）
   自己肯定感を回復させるには、どんなに小さなことでも「できたこと」を自分で認めてあげることが有効です。一日の終わりに、今日できたことを3つ書き出してみましょう。「朝、時間通りに起きられた」「頼まれた資料を完成させた」「笑顔で挨拶できた」など、ハードルは低くて構いません。この対処法は、失いかけた自信を取り戻すための、とても効果的なトレーニングになります。
3. 心の処方箋③：リラクゼーション法を試す（心身の緊張緩和）
   不安が強い時は、体も無意識に緊張しています。眠る前に、簡単なリラクゼーションを試してみましょう。例えば「腹式呼吸」。鼻からゆっくり息を吸ってお腹を膨らませ、口からゆっくりと息を吐ききる。これを5分間繰り返すだけでも、心と体の緊張がほぐれ、穏やかな眠りにつきやすくなります。

それでも心が晴れないあなたへ

今回ご紹介した対処法を試しても、どうしても不安が消えない、夢を見続けるのが辛い、という場合もあるかもしれません。そんな時は、どうか一人で抱え込まないでください。

専門家のカウンセリングを受けることは、決して特別なことでも、弱いことでもありません。むしろ、自分の心と真剣に向き合おうとしている、とても勇気のある行動です。

お住まいの地域の公的な相談窓口や、オンラインカウンセリングなど、今は様々な選択肢があります。信頼できる専門家は、あなたの心の安全基地となり、問題解決のプロセスを一緒に歩んでくれます。

あなたの人生の羅針盤は、あなたの中に

いじめられる夢は、あなたの心が送る大切なSOSサインです。夢をヒントに自分の感情に気づき、この記事で紹介したような方法で心をケアすることが、何よりも大切です。

忘れないでください。あなたは一人ではありません。厚生労働省の調査によれば、働く人の半数以上が、仕事に強いストレスを感じています。特に人間関係の悩みは、多くの人が経験する共通の課題なのです。

そして、あなたは決して弱くありません。自分の心と向き合おうと、こうして情報を探していること自体が、とても強く、素晴らしい一歩なのです。

まずは今夜、枕元にノートとペンを置いてみませんか？
夢日記を書き出すことから、あなたとあなたの心との、新しい対話が始まります。

[参考文献リスト]

• 厚生労働省 (2022). 「令和３年　労働安全衛生調査（実態調査）結果の概況」