大切な恋人や家族が、高額な占いにハマっている…。心配だけれど、頭ごなしに否定して関係をこじらせたくない。どう話せばいいか分からず、一人で悩んでいませんか?
「なぜ、あんなものを信じるんだ」と憤る前に、少しだけ立ち止まってみませんか。人が何かに強く惹かれる時、そこには必ず巧みな心理メカニズムが働いています。その「何かトリックがあるはずだ」というあなたの直感は、心理学的に見て、とても鋭いものです。
この記事では、超能力や霊感といった非科学的な話は一切しません。その代わり、認知心理学者である私が、占い師が使う心理テクニックを、具体的な会話のスクリプト(台本)を交えて、誰にでも分かるように論理的に解剖していきます。
読み終える頃には、なぜ「当たる」と感じるのかが明確に理解でき、大切な人と冷静に話し合うための「知識」という武器が手に入っているはずです。
この記事の執筆者
新庄 快斗(しんじょう かいと)
認知心理学者/『錯覚の科学』著者
TEDx登壇「なぜ私たちは信じたがるのか」。占いを否定するのではなく、そこで使われる「心理テクニック」を科学的に解剖する中立的な専門家として、あなたの知的好奇心に冷静かつ客観的にお答えします。
なぜ人は占いを信じるのか?知っておくべき「心の隙間」の正体
まず大前提として、占いを信じてしまうのは、決してその人が愚かだからではありません。私の研究分野では、これは特殊な詐欺の話ではなく、誰もが持つ「認知バイアス」の問題だと考えられています。認知バイアスとは、簡単に言えば「脳の思考のクセ」のようなものです。
特に、仕事や恋愛で強い不安や悩みを抱えている時、私たちの脳は「早く答えが欲しい」「誰かに指針を示してほしい」と、明確な答えを渇望します。この「心の隙間」がある状態では、人は普段なら気にも留めないような曖昧な言葉にも、深い意味を見出そうとしてしまうのです。
そして、一度「この占いは当たるかもしれない」と思うと、今度は確証バイアスという心理作用が働きます。これは、自分の考えを裏付ける情報ばかりを無意識に集め、それに反する情報を無視してしまう傾向のことです。この確証バイアスが、占いにのめり込むループの入り口となります。
からくり①:会話だけで心を読む技術「コールドリーディング」の会話術
占い師が使う最も強力なテクニックがコールドリーディングです。これは超能力ではなく、事前情報が全くない状態から、相手の外見や言葉の端々を観察し、巧みな質問を投げかけることで、あたかも心を読んでいるかのように見せかける会話の技術です。
彼らは超能力者なのではなく、相手に情報を引き出させ、それを「言い当てた」ように見せる会話のプロなのです。
コールドリーディングには様々な手口がありますが、その中でも代表的なのがショットガンニングです。これは、散弾銃(ショットガン)のように、不特定多数に当てはまりそうな推測をばらまき、相手が反応したものだけを拾い上げて深掘りする手法です。
以下の会話スクリプトで、その手口を見てみましょう。

この会話では、占い師は何も言い当てていません。相談者自身が、数ある推測の中から当てはまるものを選び、自ら情報を提供しているのです。これがコールドリーディングの正体です。
からくり②:「私のことだ!」と思わせる文章の法則「バーナム効果」
もう一つの強力なからくりがバーナム効果です。これは、誰にでも当てはまるような曖昧で一般的な性格描写を、あたかも自分だけに当てはまる的確な分析であるかのように錯覚してしまう心理効果です。
あなたも、以下の文章を読んで「自分のことだ」と感じませんか?
「あなたは、普段は周りに合わせて明るく振る舞うことができますが、一人になると、ふと将来のことを考えて深く思い悩むような、繊細な一面も持っていますね。」
ほとんどの人が「当てはまる」と感じるはずです。なぜなら、人間は誰しも多かれ少なかれ、このような二面性を持っているからです。
このバーナム効果によって「当たる!」という初期の感動が生まれた後、前述の確証バイアスがその信念をさらに強化します。 つまり、「当たっている証拠」ばかりを探し始め、少しでも外れている部分は「まあ、そういうこともあるか」と無視してしまうのです。この2つの心理効果の組み合わせが、一度信じると抜け出しにくい強力なループを生み出します。
典型的なバーナム効果の文章とその解説
バーナム効果を用いた文章例 この文章が多くの人に当てはまる理由 「あなたは強い正義感を持っていますが、時には人と衝突することを恐れて、自分の意見を抑えてしまうことがありますね。」 誰にでもある「理想(正義感)」と「現実(保身)」の間の内面的な葛藤を指摘しているため。 「あなたは新しいことに挑戦したいという気持ちと、今の安定した環境を失いたくないという気持ちの間で揺れ動いていますね。」 人間の持つ普遍的な「変化への憧れ」と「安定への欲求」の両方に言及しているため。 「あなたは多くの友人に囲まれているように見えますが、本当に心を許せる相手はごく僅かだと感じていませんか?」 「広く浅い付き合い」と「深く狭い付き合い」を両立させたいという、多くの人が抱える願望を言語化しているため。
【要注意】占いトラブルの客観的データと悪質な手口の見分け方
こうした心理テクニックは、良心的なカウンセラーが相談者の心を開くために使うこともありますが、残念ながら、悪質な占い師がコールドリーディングを悪用し、高額な金銭を要求する消費者トラブルに発展するケースも少なくありません。
これは単なる伝聞ではなく、国民生活センターという公的機関も警鐘を鳴らしています。
全国の消費生活センター等に寄せられる占いサイトに関する相談は、2019年度以降、20歳代の若者を中心に再び増加しており、2020年度は1,000件を超えています。
出典: 「占いサイト」に関する相談が増加しています-占い師や鑑定士から次々とメッセージが届き、いつの間にか高額な課金に-(発表情報) – 独立行政法人国民生活センター, 2021年8月5日
同センターによれば、「鑑定をやめると不幸になる」と不安を煽って引き止めたり、「運気を上げるための祈祷」と称して高額な追加料金を請求したりする手口が報告されています。もし、あなたの大切な人がこのような状況に陥っているなら、それは個人の問題ではなく、社会的に認知された消費者トラブルの可能性があることを知っておいてください。
まとめ:「論破」ではなく「対話」のために。あなたが得た知識の使い方
ここまで、占いが「当たる」と感じる背景にある、コールドリーディングとバーナム効果という2つの心理的なからくりを、会話例を交えて解説してきました。
私が講演で最もよく受ける質問は、「家族がハマっているのを、どうすればやめさせられますか?」というものです。そのたびに私はこう答えます。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 相手を「論破」しようとしないでください。それは逆効果です。
なぜなら、論理的な人ほど「それは非科学的だ!」と真正面から相手の信じている世界を破壊しようとして、かえって相手に心を閉ざされてしまうからです。あなたが得た知識は、相手を打ち負かすための武器ではありません。相手がなぜ信じているのかを理解し、冷静な「対話」のテーブルにつくための招待状なのです。
まずは、「こんな面白い心理学の話があるんだけど、聞いてくれない?」と、あなた自身の知的好奇心を共有する形で切り出してみてはいかがでしょうか。
相手を責めるのではなく、人間が共通して持つ「心のクセ」という現象として話題にすることで、きっと冷静な対話の第一歩が踏み出せるはずです。
[参考文献リスト]
- 独立行政法人国民生活センター: 「占いサイト」に関する相談が増加しています
- 石井裕之 (2005) 『コールド・リーディング』フォレスト出版.


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